通訳コラム

通訳と声 連載第8回 2015.01.16

ウイスパーボイスについて

「ウイスパリング通訳時に声がかすれて辛い。どんな発声をしたら良いでしょうか」という質問をよく受けます。
通訳のために必要な話し方のスキルとしては、ウイスパリング通訳時の発声が一番難易度が高いのではないかと考えています。他の人がうるさくないように、でも聞き手にだけはしっかりと聞こえるように声を出さなくてはいけない。しかも背後から声掛けをするのでさらに難しくなると感じています。
今日は、通訳者の皆さんを悩ませているウイスパリング通訳時に役立つ声について解説します。

「ささやき声」と「息漏れ声」の違い
一般的に、ウイスパリング通訳とは「クライアントの耳元にささやき声で通訳すること」だと理解されています。「ささやき声」は、子どもが耳元に口をつけて内緒話をする時のような声で、息だけで声帯が全く振動していない状態と言えます。声帯が振動していないということは、文字通り声になっていないのですから、相当静かな所でないと聞き手に伝わりません。また、息の消費量が激増するために、話している本人にも相当負担がかかります。
一方で、「息漏れ声」は、いつもより息を多くし、声帯に隙間を作って振動させて作る声です。ウイスパリング通訳ではこちらの「息漏れ声」を目指しましょう。
ちなみに英語に訳すと「息漏れ声」は“breathy voice”、「ささやき声」は“whispering voice”となりますが、これらは混同されて使われる事が多いようです。本コラムでは、「息漏れ声 = ウイスパーボイス」と定義したいと思います。
「ウイスパーボイス」練習法
まず、「ア〜」と長めに強い声を出してみます。それができたら今度は「ハ〜」とため息をつくように、息を混ぜた声を出してみましょう。「ア〜」「ハ〜」「ア〜」「ハ〜」と交互にやってみます。
音声1: 息の量比較 (MP3ファイル)
この時に息が抜けすぎて、声帯振動のないただの「ささやき声」になってしまう人は、息を混ぜても声になるまで練習します。小さい声で丁寧にやってみるとやりやすいようです。
声の響かせ方や舌、唇の使い方はいつもと同じようにします。発声理論的には、声帯の閉鎖を緩くしている分、共鳴をしっかりさせることで聞き取りやすい「ウイスパーボイス」を作ることができます。時々声帯を触って振動しているか確認しましょう。余分な力は抜いてください。
適度に息を混ぜて声を出せるようになったら、この「息漏れ声」で「ア〜、エ〜、イ〜、オ〜、ウ〜、」と母音を発音し、出来るようになったら、単語、文章練習に移行します。
音声2: 「息漏れ声」と「ささやき声」の違い(短い文章) (MP3ファイル)
音声3: 息漏れ声(長い文章) (MP3ファイル)
音声4: ささやき声(長い文章) (MP3ファイル)

この「ウイスパーボイス」は、歌やCMナレーションなどで多用されています。息の成分が多いと、やわらかさや癒し効果が生まれ、声にニュアンスが加味されます。また、息は感情表現につながることから、語り手の思いが伝わりやすくなります。

一度覚えてしまうと、通訳業務だけではなく話し方全般がソフトになり、プライベートなシーンでも活躍すること間違いなしです。一人で練習するには少し難しいテクニックですが、ご自身の声の魅力を増すためにぜひ練習してみてください。

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轟 美穂 さん

ラジオ局アナウンサー、TVレポーターを経て、ナレーター、司会者として活躍。プロの通訳者のための日本語パフォーマンス向上講座、放送通訳講座などの講師や、仕事で声を使う人のコンサルティングも務める。2004年より京都在住。ヴォイスコネクション主催。