通訳コラム

通訳と声 連載第9回 2015.02.13

あなたが聞き返される理由

今日は、「ボイストレーニング・話し方集中講座」でも講義をしている、聞き取りやすさについて考えてみましょう。

聞き間違えにまつわる経験は誰にでもあり、お話の題材にもなっています。例えば、古典落語の『子ほめ』。隠居の所へやってきた八五郎が、入ってくるなり、「只の酒飲ませろ!!」と言ったのでご隠居はびっくり仰天。実はこれは、「灘の酒」を「只(タダ)の酒」と聞きちがえていたからであった。ストーリーとしては面白いですが、大切な現場でクライアントがこのような聞き間違いをしたら一大事ですね。

「えっ?」と聞き返されるとき、多くの人が、大きな声を出して繰り返そうとしますが、聞き取りくい、と聞き手が感じる理由はさまざまで、単に声を大きくしてもさらに聞き返されることもあります。では聞き取りを間違える要因には、どんなものがあるのでしょうか?

大きく分けてみると、

  • 発声の問題
  • 発音の問題
  • 言葉の運用の問題
  • 文章構成の問題

が挙げられます。

そしてその全てが、「誰に、どんな状況で、何を言うか」ということにかかっているのです。たとえば聞き手が少し耳の遠い高齢者ならば、

  • 高周波の音は聞き取りにくいので、高すぎる声は避ける
  • 少しはっきり口を動かして視覚的にもわかるようにする
  • その年代の方が使わないような言葉遣いは避ける
  • 一言で簡単に説明する

などの対策が取れます。

放送で流す音声では、

  • 視聴者は何かしながら見ている場合が多いので、難解な説明は避ける
  • うるさい環境でも聞きとれるような母音の発音を心がける
  • 概要の理解を促してから詳細を説明
  • 大事なところはテロップで視覚的に補強
  • やさしく言いかえる役割の人(タレントなど)が説明を補強する

などでしょうか。

また、インフォームドコンセントのように専門家がクライアントに説明をする場合、自分の常識ではなくその人の知識、理解レベルに合わせて言葉を選び、やさしい説明を心がけなければ、いくら誠実に説明しても理解されずに何度も聞き返される、ということが起こり得ます。
話し手だけの問題ではなく、聞き手が自分勝手に自分の期待度で話を解釈してしまう、という事もあります。上記の落語の例では、「ただの酒が飲みたいもんだなあ」という八五郎の潜在的願望があったかもしれません。それを想定して、「『タダ』ではなくて、『灘』だよ」と言い変えて釘を刺しておく、などの対策が考えられます。

このように、聞き取りにくくなる要因は声の大きさだけではなく複合的です。
あなたが聞き返された時、その原因は本当は何だったのでしょうか? ただ声が小さかったからだ、と無意識に決めつけていませんか? 丁寧に分析してみる事で、更なるパフォーマンスの向上が期待できます。上記を参考に一度考えてみて下さい。

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轟 美穂 さん

ラジオ局アナウンサー、TVレポーターを経て、ナレーター、司会者として活躍。プロの通訳者のための日本語パフォーマンス向上講座、放送通訳講座などの講師や、仕事で声を使う人のコンサルティングも務める。2004年より京都在住。ヴォイスコネクション主催。