通訳コラム

ビジネス用語と概念メタファー 連載第1回 2013.05.24

組織のメタファー

皆さんはビジネス用語を覚えるときにその語彙に関係するメタファーを意識していますか? メタファーと言っても、詞や文学に出てくるような表現上の効果をねらったものではなく、私たちが思考するときに無意識に使っている「概念メタファー」と呼ばれるものです。私たちは指でさし示すことのできる具体的なもの以外は、たいてい何か具体的なものに喩えて認識しているそうです(※1)

例えば「議論(argument)」のような抽象概念は「戦争」などとして認識されます。議論をするときは、相手の立場を攻撃し(attack the opponent's position)、自分の立場を擁護し(defend our own position)、その結果として議論に勝ったり負けたり(win/lose an argument)しますね。その他にも「人生は旅」、「時は金」など様々な概念メタファーがあります。

ビジネスの世界も概念メタファーであふれています。今回は「組織(organization)」に関するメタファーをご紹介しましょう。

営業組織は、軍隊(military)として認識されます。
営業組織は、市場シェアや顧客を獲得するため(win/gain a market share/customer)、市場に関する情報を収集し(market intelligence)、戦略(go-to-market strategy, winning strategy)、戦術(tactics)を策定し、キャンペーンを実施し(launch a campaign)、前線の(front-line)営業部隊(sales force)の士気を高め(morale)、競争に勝ちます(win the competition)。

業務改革をおこなう組織は、機械(machine)として認識されます。
組織は、最小の資源(resources)の投入(input)で、最大の生産(output)を得るため、各機能(function)や業務(processes)の合理化(streamlining)や標準化(standardization)を進め生産性(productivity)や効率(efficiency)を改善します。

長期的成長をめざす組織は有機体(organism)として認識されます。
組織はそのDNAに従って、筋肉質な体質(lean structure)、財務健全性(financial health)、環境への適応(adaptation to the environment)、進化(evolution)により、成長(growth)、生存(survival)、環境との共生(symbiosis)を目指します。

もちろん、これらのメタファーは無意識に同時に使われることも多いです。
通訳者としては、一つ一つの語彙が、どのようなメタファーに属するのかを意識することによって、頭の中で情報をビジュアル化したり、話者の概念フレームに合った語彙選択をし易くなります(同じ「人」でも、軍隊メタファーの場合は“sales force”、機械メタファーの場合は“human resources”、有機体メタファーの場合は“people”と訳すなど)。

メタファーによるビジネス用語の習得法が少しでも参考になれば幸いです。次回は別のビジネスメタファーをご紹介したいと思います。

※1
参考文献: George Lakoff and Mark Johnson 著 “Metaphors We Live by”
通訳情報ステーションページの先頭へ戻る
梅 佳代 さん

日系、外資系、大手数社の企業内通訳として勤務したのち、会議通訳者、ビジネス通訳者として活躍中。通訳養成学校にて講師として後進の育成に努めるとともに、企業派遣の講師としてビジネスパーソンへの英語指導も行い、その指導力の高さに定評がある。