通訳コラム

ビジネス用語と概念メタファー 連載第2回 2013.07.19

チームのメタファー

前回は「概念メタファー」の中でもとりわけ「組織」に関するもの(軍隊、機械、有機体)をご紹介しました。今回は「組織」よりインフォーマルな企業内「チーム」に関するメタファーをみてみましょう。

日本語ではチームで一緒に働く人のことを上司(superior)、部下(subordinate)、同僚(colleague)などと呼ぶことが多く、このようなチームは家族のメタファーで捉えられていることがよくあります。上司は部下の面倒をみて、部下を失敗から守り、成果に対する責任を引き受けます。その代わりに部下は上司に対して献身的であることが求められます。家族ですから役割分担はあいまいで互いに互いの仕事を手伝いますが、仕事は属人的です。このような家父長的(paternalistic)なチーム感は、外資系企業で通用しないこともあるのだと思います。

外資系企業でよくみられるチーム感と言えば、たとえば野球やサッカーなどのスポーツです。スポーツのチームですから、上司は manager, coach, captain、部下は team member, player となるでしょう。組織構造はフラットでエンパワーメントが進んでいます。役割分担ははっきりしていますが、仕事は属人的でなく交替が可能になっています。スター選手もいますが成果はあくまでもチーム全体のためにあります。

前回は「組織」のメタファーとして登場した軍隊のメタファーは、「チーム」にもあてはまります。上司は commander, chief, officer, person in charge、部下は rank and file, staff などと表現されます。このようなチームでは役割分担(roles and responsibilities)が明確で、上司と部下の権力格差(power distance)も大きく、規律(discipline)と統制(control)によって運営(operation)されています。

より民主的なチームであればメンバーが互いにパートナーであるようなチーム感もあります。金融や法律などの専門家集団に多いこのタイプのチームでは、上下関係にかからず互いに associate とか partner と呼び合います。経営者と従業員は成果(performance)と報酬(rewards)の取決めによって結びついており、働き方についての統制(control)や規律(discipline)はそれほど強いられません。日本の伝統的な企業ではあまり馴染のない概念フレームかも知れません。

このように私たちが日ごろ何気なく使っている企業内チームに関する用語は家族、スポーツ、軍隊、パートナーのような、それぞれ異なる概念メタファーに基づきます。
但し、概念メタファーの中には dead metaphor と呼ばれる時間と共に本来のメタファー概念から切り離されたものもあります。例えば英語の bottom line という用語は、本来は「船の最大積載量を示すために引かれた線」から「最終利益(net profit)のような財務的な重要情報」へのメタファーだったそうです。ところが現在では財務のみならず、“The bottom line is that I love you.”のように、あらゆる領域での重要情報という意味で使われるようになっています。

参考文献: Cristina B. Gibson 著 “Metaphors and Meaning: An Intercultural Analysis of the Concept of Teamwork”

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梅 佳代 さん

日系、外資系、大手数社の企業内通訳として勤務したのち、会議通訳者、ビジネス通訳者として活躍中。通訳養成学校にて講師として後進の育成に努めるとともに、企業派遣の講師としてビジネスパーソンへの英語指導も行い、その指導力の高さに定評がある。