通訳コラム

通訳の現場から 連載第25回 2016.12.02

アクセス

私にとって通訳という仕事とは、様々な情報、人々、経験に対して「アクセス」を与えてくれるものです。

初めて通訳の真似事のようなことをしたのは、大学生のときでした。自分の出身の田舎町から、20名ほどのグループで、アメリカにホームステイをしに渡航したのです。
私は帰国子女でもありませんから、特に英語ができたわけでもありません。ただ、一緒に渡航した他のメンバーは、ほとんどが定年退職をしたお年寄りか、中高生。大学生なら一番英語ができるだろうということで、拙いながらも通訳をつとめました。

今となって、このときの経験が私の出発点だったように感じます。大学生にとって、大人の役に立てるということはなかなかありません。また、単なる地域のおじいちゃん、おばあちゃんだと思っていた人たちが、歴史や自然に詳しく、たくさん語るべき経験を持っているということにも気づきました。通訳をつとめなければ、決して知ることもなかったでしょう。

初めて社内通訳者として勤めたのは、外資系の製薬会社でしたが、社長付きのポジションだったので、部課長との会議などにも通訳をするために参加をしました。もちろん経験不足で、理解できないことも多くありましたが、どのように組織が機能しているのかということを学ぶことができました。

通訳はアウトプットが前提なので、自ずと話をしっかり聞くようになります。この会社には半年しか勤めなかったのですが、その前にサラリーマンとして4年半勤めていた会社のことよりも、通訳者として半年勤めた会社についてのほうが、全体像としてはよく分かっているように感じます。

そのあとさらにコンサル会社の社内通訳者も勤めましたが、こちらは毎回そのコンサル会社のクライアントとの会議の通訳ということで、様々な業界の様子を見ることができました。

今はサイマルの専属通訳者として活動していますが、毎日様々経験をさせていただき、刺激の多い毎日を送っています。比較的ビジネスの案件が多いですが、早朝の築地市場や原発、展示会など、「こんなところにも通訳の需要があるのか!」と驚く例は枚挙に暇がありません。

難しい案件で思ったような通訳ができず、もうよく知らない分野の仕事は引き受けないようにしよう、と思うのですが、仕事の打診のメールを見るとつい、新しい世界に「アクセス」したくなってしまいます。気がつくと、「お引き受けします」と返信しています。

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佐藤 祐大 さん

熊本大学英文科卒。公益財団法人日本英語検定協会(英検)に4年半勤務したのち、通訳者を目指してロンドン・メトロポリタン大学で会議通訳の修士号を取得。その後マッキンゼーなどの社内通訳者を経て、2016年10月からサイマル・インターナショナル専属通訳者。