通訳コラム

通訳の現場から 連載第27回 2017.12.08

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通訳者のなかにも記憶力がよい人と悪い人がいるかもしれません。私は昔から記憶力にあまり自信がありません。通訳の仕事をこなすなかで、どうしても定着しにくい訳語や、一定期間使わなかったせいで、「記憶の引き出し」の奥深く眠ってしまい、とっさに取り出せない訳語がでてきます。会議通訳や放送通訳の仕事を続けていくには、たえず新しい単語をインプットする必要がありますので、よく使わない用語や言い回しは、記憶から消えていきます。

では、私が現場でさっと思い出せなかった日本語訳はどういうものか、恥ずかしながらいくつか例を挙げましょう。放送通訳で以前、訳したことがあるのに、訳出につまった単語です。

「波多黎各」→プエルトリコ、「波斯湾」→ペルシャ湾、「曼城」→マンチェスター・シティ、「林鄭月娥」→キャリー・ラム(香港の行政長官)、「嘉華」→カーニバル、「修昔底徳陥穽」→トゥキディデスの罠、「假释」→仮釈放などなど。

放送通訳・会議通訳に関わらず、カタカナ用語は覚えにくいのです。

対策は通訳者によって十人十色でしょうが、私の場合は、忘れたり間違えたりした単語は、できるだけ可視化、あるいは意識化することを心がけています。具体的には、原語と出てこなかった訳語を、忘れないうちにメモしておき、あとで自分の用語集に書き加えます。ミスした単語がずらっと並んでいるので、眺めていると思わず苦笑してしまいます。

通訳の現場でつねにノーミスで仕事をすることなど、無理な話です。毎回、同じ分野の通訳をするならともかく、さまざまな分野の通訳をこなすなかで、過去に訳した単語を覚えていなくても、仕方のないことです。 新しい分野にどんどん挑戦していれば、ある程度ミスをするのは避けられません。それでも自分がミスした部分を拾い上げ、次に活かせば、進歩につながります。

通訳の現場では、つねにさまざまなミスをするリスクがあります。ですから、自分の通訳能力に慢心せず、貪欲に学び続けること。それがレベルアップを図るために、私が大切にしていることです。

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神崎 龍志 さん

明海大学外国語学部中国語学科准教授。サイマル・アカデミー通訳者養成コース講師。会議通訳者。趣味は読書と弦楽器・打楽器の演奏(自宅は本と楽器であふれ返っています)。