通訳コラム

通訳の現場から 連載第29回 2018.04.16

聴き手を意識すること

今年の3月、平昌オリンピック・パラリンピックの案件に参加する機会をいただきました。2020年の東京大会に向けた取り組みをされている方々が参加された現地プログラムのための通訳です。

会議室でのブリーフィングと現場視察の両方があり、通訳の形式としては、送受信機を使ったウィスパリングが主でした。英語による発言を直接通訳する場合と、韓国側通訳者を介したリレー通訳の場合がありました。いつもと違う環境での通訳で、通訳の仕方、学び方についてヒントを得ることができました。

体感温度零下10何度のスキー場での通訳では冷たい風に口がこわばることや、ヘッドセットから聴こえてくる音声が風によるノイズにかき消されてしまっていることもありました。

普段と違ったことのもう一つは、リレー通訳が多かったことです。韓国側通訳者の方たちの熱心さに刺激を受け、同志意識も覚えました。同時に、まだリレー通訳の経験が少ない私にとってリレー通訳は簡単でなく、いつもよりエネルギーを使いました。

これまでの限られた経験も含めて考えてみて、リレー通訳を難しく感じる理由には、例えば次のような要因があると思っています。

  • 言語間の語順の違いなどによる文の構造への影響
  • 通訳のスピードの揺れ
  • 通訳者の迷いや戸惑いの現われ
  • 通訳者の発音・イントネーション

考えてみれば(本来、考えるまでもなく)こうした要因は、そっくりそのまま、普段の業務の中で、通訳を利用してくださる方たちの負担になっている点だとあらためて実感しました。こうした点を意識して自然な通訳を心がけていこうと決意を新たにしました。

一方で、通訳をしやすかったリレー通訳の状況を思い出してみると、通訳者がはっきり、エネルギーのある話し方をしていたことに助けられたことが多かったです。翻って、自分が初めてブースでリレー通訳をした際には、発声にまで意識が行かなかったどころか、出来の悪さに対する申し訳なさのために、どんどん声が小さくなってしまったことを思い出します。さぞわかりにくかっただろうと、あらためて申し訳なく思いました。

実は今回の平昌で、通訳の合間の休憩の時間に、他の言語の通訳者と「こんにちは」「寒いですね」などと言葉を交わした後、急に通訳をしやすく感じた経験をしました。やはり、互いに相手の存在を意識することが大事だと感じました。

今回の案件では、プログラムの参加者の方たちの熱心な取り組みにも刺激を受けました。多忙な中、前の晩に会議をして質問事項をまとめてから視察に臨まれる姿などを目にして励みになりました。自分も、今回得たヒントも活かしながら精進して力をつけていきたいと思いました。

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勝木 一郎 さん

国際基督教大学卒。慶應義塾大学大学院、米国ミネソタ大学大学院を修了後、ワシントンDCで自然保護団体のインターン。国会議員秘書を経てサイマル・アカデミー入学。在学中からサイマル・ビジネスコミュニケーションズを通して社内通訳として勤務した後、サイマル・インターナショナル専属通訳者。